カルチャー

柴那典「ヒットの崩壊」は“炭鉱のカナリア”となるだろう。

昨年末に発売され大きな話題となった一冊、柴那典「ヒットの崩壊」

この本は一体どのような動機で手に取られ、読まれているのだろうか?

音楽ジャーナリスト・宇野維正氏が書評に書いたように“「炭鉱のカナリア」的に各業界の先行指標になるとも言われている”といった音楽業界の性質から、今後自分の生業とするフィールドの未来を占うためだろうか? それとも単純に社会学的に音楽業界の構造と現状に興味があるからだろうか?

学生時代から10年ほど音楽業界の末席で(近づいたり離れたりしながら)仕事を続け、その概況をすでに知っていた身としては、本書の内容に新奇性はない(そもそも想定読者ではないだろう)。だが、著者と編集者の丁寧な仕事による明確なファクトとともに提示される分析からは、たしかな再確認があった。それは「インターネット、そしてスマホの普及によってどう音楽が変わったか」であり、「インターネットがどう変わったか」そして「インターネットによってどのように社会や人が変わったか」である。

きっとこの変化は今後加速していくだろう。そこにはインターネットやスマホやSNSだけではなく、AIやVR、ARといった新しいテクノロジーが確実に関わってくる。そして、それらの技術はこれまでにない質と量で人と社会と音楽を変えていくことは間違いない。

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“もう始まっているからね”

「音楽ライター」としての自分の現状認識はサインマグに寄稿した2016年ベストアルバム&ソングに書いたとおり「たくさんの血と涙が流れるだろうが、楽しいこともきっとたくさんあるだろう」というアンビバレントなものである。具体的には「自分が愛するものが失われていく寂寥と同時に、未知のものへの期待と興奮がたしかにある。そして全体的には混乱している」という態度だ。ここ2年ほどは、自分が書いた音楽に関する原稿のほとんど(絶対数が極めて少ないものの…)からは、そうした戸惑いが根本にあることが容易に見て取れる

それほどの規模で、これまでにない大海嘯が眼前に迫っている。いや、もう始まっている。

後から振り返れば、本書自体が「炭鉱のカナリア」となるはずだ。

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)
(ちなみに著者近影には僕が撮影した写真を使ってもらっています)

・・・

おまけ

本書、そしてそれ以上に著者・柴那典氏自身の副読テキストとして〈SILLY〉掲載の田中宗一郎氏によるインタビューは必読。
①著者、柴那典に訊く。『ヒットの崩壊』はきちんと読まれたのか?
②『ヒットの崩壊』の著者=柴那典、「ロキノンの末席」からの変容
③『ヒットの崩壊』の著者=柴那典、その可能性の中心を探る

そんな柴さんとタナソウさんを僕が個別にインタビューした過去記事はこちら。
悲観を超えてタフなインディーが生まれた。柴那典に訊く「2016年、東京の音楽シーンでは何が起こっているのか?」
それは“洋楽文化の歴史”でもある。田中宗一郎に訊く「海外アーティストにとっての“日本”とは?」

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照沼健太

編集者・ライター・写真家・音楽評論家。2014年より2016年末までユニバーサル ミュージックジャパンのオウンドメディア『AMP』編集長を務め、並行してライフスタイルメディア『ROOMIE』に編集部員として参画。現在は音楽・カルチャー・広告等の分野にてコンテンツ制作やプロデュースを行っています。

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